コミュニケーション特性のある人は「怒り」のサインに気づきにくいのか?
- yoko97asaka
- 2021年2月19日
- 読了時間: 3分
更新日:1月28日
花畑の中にひっそりと潜む一匹の蛇と、蛇だらけの場所に紛れ込んだ一輪の花。
皆さんなら、どちらをより早く見つけることができるでしょうか。
多くの人は、危険を示す刺激(蛇)のほうを、安全な刺激(花)よりも早く見つけられるはずです。
これは、人間の脳が進化の過程で獲得してきた生存に直結する注意システムによるものです。
脳は「危険な表情」に優先的に反応する
私たちの脳は、怒り・恐怖といったネガティブな感情表現に対して、無意識のうちに注意を向けやすくなっています。
特に「怒りの表情」は、
攻撃の可能性
対人関係上のリスク
を示す重要な手がかりであり、多くの人にとっては笑顔よりも素早く検出される刺激です。
京都大学の研究が示した、興味深い違い
ところが、自閉スペクトラム症(ASD)特性をもつ人々を対象とした京都大学を中心とする研究では、この「怒り優位効果」が必ずしも見られないことが報告されています。
研究の概要
研究では、子どもたちを次の2つのグループに分けました。
自閉スペクトラム症特性をもつ子どもたち
そうした特性をもたない子どもたち
そして、複数の顔写真の中から、
「笑顔」
「怒りの表情」
をできるだけ早く見つけ出す課題を行いました。

結果:怒りへの「注意の優先度」が異なる
結果は明確でした。
特性をもたない子どもたちは 👉 怒りの表情を笑顔よりも速く発見
一方、ASD特性をもつ子どもたちは 👉 怒りと笑顔をほぼ同じ速度で発見
つまり、怒りの表情が特別に「目立つ刺激」として処理されていなかったということです。
この傾向は、大人を対象とした追試研究でも確認されています。

これは「感情がわからない」という意味ではない
ここで重要なのは、この結果が
「怒りの感情が理解できない」「共感性が欠如している」
ことを意味しているわけではない、という点です。
研究が示しているのはあくまで、
視覚的注意の向け方
感情刺激への優先順位づけ
という、脳の情報処理特性の違いです。
日常生活で起こりやすいすれ違い
怒りの表情に気づくまでに時間がかかる場合、
周囲が不快に感じていることに気づきにくい
自分の言動がネガティブに受け取られていることを察しにくい
といったことが起こりやすくなります。
その結果、
場の空気にそぐわない発言
悪意はないのに誤解される行動
につながることもあります。
一方で、怒りや圧力といった感情シグナルに過度に左右されないことは、
周囲に迎合しすぎない
本質的な問題点を率直に指摘できる
論理や事実を優先した思考ができる
という 強み にもなり得ます。
実際、多くの人が遠慮して口にできない指摘が、新たな発想や改善につながるケースも少なくありません。
ニューロダイバーシティという視点
近年、アメリカのシリコンバレーをはじめとする企業では、
自閉スペクトラム症
ADHD
学習特性の違い
を「欠陥」ではなく、**認知の多様性(ニューロダイバーシティ)**として捉え、積極的に活かそうとする動きが広がっています。
脳の特性の違いは、優劣ではなく 役割の違い。
多様な情報処理スタイルが共存することで、組織や社会はより柔軟で強靭になります。
違いを知ることが、理解への第一歩
感情の読み取り方や注意の向け方が異なるからこそ、
誤解が生まれる
同時に、新しい価値も生まれる
のです。
「なぜ伝わらないのか」を個人の性格や努力不足に帰すのではなく、脳の特性の違いとして理解すること。
それが、より豊かで持続可能なコミュニケーションへの第一歩になるでしょう。
参考文献
Isomura, T., Ito, H., Ogawa, S., & Masataka, N. (2014).Absence of Predispositional Attentional Sensitivity to Angry Faces in Children with Autism Spectrum Disorders.Scientific Reports, 4, 7525.































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