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ポール・エクマン博士のご逝去に寄せて


2025年11月17日、感情科学と表情研究の第一人者である ポール・エクマン博士(Paul Ekman, Ph.D.) が、91歳で永眠されました。ご家族に見守られながら静かに旅立たれたとの報に接し、国際ボディランゲージ協会として、深い哀悼の意を表します。

エクマン博士は、60年以上にわたり人間の感情・表情・真実性の本質に迫り続けた研究者でした。その功績は心理学、医学、法執行、教育、文化人類学など多様な分野に影響を与え、世界中で応用され続けています。




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感情科学を世界に広めた先駆者


エクマン博士は、文化を超えて共通する基本感情表情の存在を示した画期的な研究によって、感情研究に新たな地平を切り開きました。彼のフィールドワークは世界の僻地にまで及び、「表情は文化を超えて理解されるのか」という長年の問いに、科学的な答えを提示しました。



また博士は、人間の表情筋の動きを精密に分類する Facial Action Coding System(FACS) を開発。これは、研究者・医療従事者・コーチ・警察・教育者など、表情を専門的に扱うすべての人々にとって“共通言語”となりました。私たちが今日、表情筋の動きや微表情のニュアンスを語ることができるのは、間違いなく博士の貢献によるものです。




「微表情」という概念を世界に届けた人


博士が生み出した Micro Expression Training Tools は、わずか1/25秒ほどで表れる“微表情”の理解を広め、真実性評価、面接、医療、カウンセリングなど、幅広い領域で活用されてきました。

日本でも、多くの専門家が博士の著作に触れて学び、キャリアを形づくってきました。私自身もその一人です。非言語研究の世界に入った初期の頃、博士の研究の明快さと人間理解への誠実さに深く感銘を受けました。

晩年の博士は、研究成果を人々の幸福にどうつなげるかに力を注がれました。

ダライ・ラマ法王との長年の協働・「Developing Global Compassion」の共同執筆・瞑想・情動トレーニングの研究・娘であるイヴ・エクマン博士との「Atlas of Emotions」プロジェクト・Cultivating Emotional Balance(CEB)の開発、これらはすべて、「感情の理解は、より良い社会をつくる力になる」という博士の信念の表れでした。


エクマン博士の仕事は、学問的価値だけでなく、「他者を理解しようとする姿勢」そのものの大切さを教えてくれました。表情を読む技術は、人を見抜くためではなく、相手を尊重し、誠実に向き合うための道具であるという一貫した姿勢──。それが、博士の研究を世界中の人々が支持し続ける理由だと感じています。


博士の研究は書籍『Emotions Revealed』『Telling Lies』として広く知られ、ドラマ「Lie to Me」、映画「Inside Out(インサイド・ヘッド)」の監修としても一般の人々に響きました。

そして今後は、彼の娘の Eve Ekman 博士のもとで Paul Ekman Group の活動を通じ、博士の使命である「感情の理解と共感を広げる教育」は引き継がれていくでしょう。




心からの感謝を込めて


ポール・エクマン博士は、非言語コミュニケーションの世界において、比類なき基礎を築いた人物でした。

世界中の研究者、実務家、教育者が博士の理論に支えられ、その洞察に触れることで新たな道を歩んできました。

国際ボディランゲージ協会として、そして非言語研究に携わるひとりとして、博士の生涯の仕事に深い敬意を表し、心より感謝申し上げます。


どうか安らかに──。

国際ボディランゲージ協会代表 安積陽子

 
 
 

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