人の感情を自分の顔で読み取る
目の見えない方と向き合う時に、私たちは自分の表情や態度に無頓着でも良いのでしょうか?
じつは目が見えない方でも、自分の顔を使いながら他社の表情を無意識に感じ取れるということが、オランダのTilburg大学のMarco TamiettoとBeatrice de Gelderらを中心とする研究者たちによって示されました。
Tilburg大学で行われた研究とは次のような内容です。
まず脳に障害があるために片側の視覚野が破壊され現象的盲目となったある2人の患者(被験者)に対して、幸せそうな顔をした人と、怖い顔をした人の画像がランダムに混ざった画像を、それぞれ2秒間ずつ連続して表示させました。
そして、見えない側の瞳に示された人物の感情を、その被験者が感じ取れるかを調べるました。

このとき被験者の顔には特殊な電極が取り付けられ、感情表現に関わる小さな筋肉の普段は気づかないような微妙な収縮も測定されました。
被験者は、見えない側の瞳に提示されているにも関わらず、幸せそうな顔の写真を見せられたときには笑顔を作る際に使われる筋肉を、怖い顔をした写真を見せられたときには顔を引きつらせる際に使われる筋肉の収縮を見せました。
この驚くべき反応は、目が見える側に提示されたときも、見えない側に提示されたときも同じでした。
この研究からは、私たち人間は本人が意識していなくても、対面している人の顔の表情を自分の顔に同期させ、認識できるという興味深い結果につながりました。
これまで他者の表情は視覚を通して理解され、他人の心や行動を理解する手助けとなるミラーニューロンの働きで感知できると考えられていました。しかし実際は、人間の脳の中には相手の動作を認識するために働くネットワークが存在し、無意識に人の感情を感じ取り、それに共鳴できる力があることがわかります。

じつは目の見えない人に限らず、目の見える人たちも、意識できないほど瞬間的に現れる表情を閾下で感じ取ることができることもわかっています。
たとえば目の見える被験者が、閾下で見せられた表情が笑顔であれば、そのあと対面した人間に対して肯定的な感情をいただく傾向が強く、逆に怒りや嫌悪などの表情を閾下でみると、そのあとに対面する者に対しマイナスの評価をする傾向があります。このとき表情筋の動きを測定すると、見せられた表情に対して被験者の顔もわずかに反応していることがわかりました。
